バレエ 「竜宮 りゅうぐう」 音楽の背景とは? 作曲家・松本淳一さんに聞く

9/23(木・祝)にフェスティバルホールで上演される、新国立劇場 こどものためのバレエ劇場「竜宮 りゅうぐう〜亀の姫と季(とき)の庭〜」。
音楽を手がけたのは、作曲家・松本淳一さんです。
2014年「そして父になる」をはじめとする映画、テレビ、舞台音楽などで幅広く活躍中の松本さんに、作曲の背景についてうかがいました。

公演詳細は こちら から

インタビュー・構成:田中泰(音楽ジャーナリスト)


テーマは “日本固有の「時」

作曲にあたっては、日本の歴史や風土、自然の美しさや深さといったものをしっかり人の心に届けたいという思いがありました。
具体的には、竜宮城で知られる浦島太郎の逸話を通して「時」に強くフォーカスしたのです。その上で、四季を通して私達の心身に刻みこまれてきた日本固有の「時」を音楽制作のテーマに据えました。
この「竜宮」の脚本には「時」や「今」を強烈に感じさせる何かが流れています。それは演出の森山さんが観ている浦島太郎に流れている「時」と「今」なのかもしれません。それを音楽によって具現化したいと感じたのです。

Stage Photos by Takashi Shikama


有名なメロディをアレンジした、その心は?

太郎が舞台で初マイムを踊るシーンでは、有名な「むかし、むかし、浦島は~♪」のメロディ以外ないと思いました。物語のある種の軽さ、痛快さのようなものも直感的に受け取ってもらいたかったのです。
助けた亀に連れられて竜宮城に行っちゃう訳で、地上に戻ると、とんでもなく時間が経ってしまっている。まるでSFのようです。このヒット作には「まずこの曲でしょ」という選択でした。
しかし「のっぴきならぬ情景にこれから皆様をお連れします」という、ある種の予感や覚悟のような部分も薄く滲ませたことで、アレンジは少し意味深になったかもしれません。

和と洋を響かせ合うというこだわり

森山さんから最初に受け取ったメッセージは、「日本の風土や歴史が持つ美しさや奥深さのようなものを子供たちにきちんと届けたい」という想いでした。さらには「バレエの伝統を日本の伝統に重ねて魅せたい」という事も伝えられました。
それを受けて、日本の四季における心象風景を雅(みや)びやかに展開させるバレエ作品の見せ場「ディベルティスマン」は、音楽面でも和と洋を響かせ合う大切なシーンとなっています。
今回は、雅楽(ががく)の「間合い」にも通じる曖昧(あいまい)で複雑な音形が要所要所に登場します。これは、西洋文脈のバレエにおいても、和の要素が成り立つのかというほのかな提議でもあります。

Stage Photos by Takashi Shikama


和洋折衷の楽器編成が生み出すものとは

今回の楽器編成は、とても多岐にわたります。雅楽からは、琵琶(びわ)、笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、琴(こと)、和太鼓(わだいこ)群などが登場し、様々な演奏手法が駆使されます。
特に琵琶は、非常に高貴な楽器として扱われてきた日本の歴史がありますが、僕自身もこの作品を通してその空気感に触れたかったし、皆さんにもお届けしたいという気持ちがありました。
洋楽器からは、オーケストラの主要楽器は勿論、中世古楽器やアンティーク、音程の狂ったトイピアノや木琴に鍵盤楽器、ラッパや笛、おもちゃの楽器等々、様々なものを音楽の中に織り込みました。さらには、自然環境のサンプリング音も多用しています。

音楽の持つ宇宙的側面を感じてほしい

森山さんの演出や着想からは、日本の森羅万象に脈々と息づいてきた宇宙観のようなものを感じます。そこで音楽においても宇宙的側面も提示したいと考えたのです。

今回、約2時間の音楽を作りました。ゴール手前では「試されている」と感じつつも、浦島太郎にまつわる逸話の深遠性に導かれたという気もします。ステージをご覧になって、物理的なもの、目に見える直接的なものだけではない「何か」を感じとっていただけることを願っています。

Stage Photos by Takashi Shikama

[作曲・音楽製作]
松本淳一(まつもと じゅんいち) 
作曲家。2009年アイスランド芸術大学大学院に留学。11年クラシック音楽の登竜門・エリザベート王妃国際音楽コンクール作曲部門・ファイナリスト賞を獲得し、映画、TV、J-POP、舞台音楽等幅広い分野で活躍。14年映画 「そして父になる」で日本アカデミー賞音楽優秀賞を受賞。18年には森山開次「不思議の国のアリス」音楽を手がけるなど、様々な媒体や分野を通し音楽で人々に感動を与え続けている。

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