大阪国際フェスティバル公式ブログ

バレエ「竜宮」の元になった 御伽草子「浦島太郎」のあらすじをご紹介

バレエ「竜宮 りゅうぐう」で演出・振付の森山開次さんがつづる浦島太郎のお話は、よく知られた昔話のあらすじとは少し違います。
玉手箱をあけた浦島太郎がおじいさんになってしまった後、物語がまだ続くのです。
森山さんがモチーフにしたのは、室町時代を中心につくられ、江戸時代にまとめられた「御伽草子（おとぎぞうし）」の浦島太郎。その現代語訳をもとに、あらすじをご紹介します。

丹後国（たんごのくに）［今の京都府北部］に、浦島太郎という２４、５歳の男がおり、海の魚を取って父母を養っていた。ある日、ゑしまが磯（いそ）という所で、亀を一匹釣り上げた。太郎は亀に「鶴は千年、亀は万年といって、寿命の長いものだ。ここで命を奪うのはかわいそうなので助けてやろう。日ごろ、この恩を思い出すがよい」と言って、海に返した。

次の日に釣りをしようとすると、海上に小さな舟が浮かんでいて、美しい女人が一人で波にゆられて、太郎のところへたどり着いた。女人は船旅の途中、荒い波風で多くの人が海の中へはねとばされた時、情け深い人が自分を小舟に乗せて放してくれたのだという。「ちょうど今あなたにお逢いしたのもご縁なのでしょう」と泣いたので、太郎はかわいそうに思い、綱を取って引き寄せてやった。

「私を本国へ送ってほしい」という女人の頼みを聞いて、太郎は舟に乗って沖へ漕ぎ出し、十日ほどの旅で女人の故郷へ着いた。そこは銀の築地（ついじ）、金の屋根瓦のあるすばらしい住まいだった。「はるばると送ってくださったということは前世からの縁ですから、私と夫婦になりましょう」という女人の言葉に従って、二人は仲むつまじく暮らした。

女人は「ここは竜宮城という所です。四方には四季の草木があるのですよ。お見せしましょう」と言って、太郎を連れ出した。東の戸をあけると春の様子が、南の戸をあけると夏の様子が、西には秋、北には冬の景色がながめられた。

こうして年月が経ち、間もなく三年となった。太郎が「三十日の暇（いとま）をください。父母の様子が気がかりなので、会って安心して戻ってきましょう」と言うと、女人は「今別れたらまたいつ逢えるでしょうか。たとえこの世では、はかない契りであっても、きっとあの世では同じ蓮（はちす）の上に出逢えるように生まれてください」と言って、さめざめと泣いた。

また女人は、「今となっては隠すことは何もありません。私はこの竜宮城の亀ですが、ゑしまが磯であなたに命を助けられました。その恩に報いようと、こうして夫婦となってさしあげたのです。これを私の形見にしてください」と言って美しい箱を取り出し、「どんなことがあってもこの箱をあけてはいけません」と渡した。二人は別れの歌を交わし、太郎は名残を惜しみながら帰って行った。

太郎が故郷に帰ってみると、そこは人気のない荒れ果てた野原になっていた。
粗末な小屋があったので、立ち寄って声をかけた。８０歳くらいの翁（おきな）が出てきて「どなたですか」と言うので、「ここにいた浦島の行く先はわかりませんか」と尋ねた。すると翁は「その浦島という人は、もう七百年も前のことと言い伝えられています」と言ったので、太郎はたいそう驚き、いきさつを語った。

翁も涙を流し、「あそこに見えているのがその人の墓所だと言われています」と指さして教えた。太郎は泣きながら古い塚に参り、嘆きの歌を詠んだ。そして一本の松の木陰で呆然としていた。亀がくれた形見の箱は、決してあけるなということだったのに、残念なことに太郎は、こうなったらあけて見ようと思って見てしまった。中からは紫の雲が三すじ上がって、２４、５だった太郎の年齢はたちまちに変わりはててしまった。

そして太郎は鶴の姿になり、大空に飛び上がっていった。そもそも太郎が七百年の寿命を保っていたのは、亀が太郎の年齢を、箱の中にたたみ入れておいたおかげなのである。さてその後、浦島太郎は丹後国に浦島の明神（みょうじん）として現れ、すべての生き物を救っておられる。亀も同じ所に神として現れ、夫婦の明神となっている。まことにめでたいことである。

この記事は、大島建彦『完訳　日本の古典　第四十九巻　御伽草子集』（1988年、小学館）「浦島太郎」を参考に、あらすじをまとめたものです。

top