吹奏楽とオーケストラ、響き合うその関係とは。 柴田克彦さん寄稿

オーケストラのために書かれたクラシック作品を吹奏楽に編曲することで、音楽の魅力がダイレクトに伝わり、曲に新たな息吹を与えることがある――。
そう語るのは、音楽ライター・評論家で『1曲1分でわかる! 吹奏楽編曲されているクラシック名曲集』(音楽之友社)の著者、 柴田克彦さんです。
9/2[土]開催の「祝100周年!オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ『カルミナ・ブラーナ』公演」を前に、寄稿いただきました。


《クラシック作品における吹奏楽編曲の妙味》

柴田 克彦

 吹奏楽の魅力の1つはレパートリーの広さだ。多数のオリジナル作品に加えて、映画音楽やスタンダード曲を含めた世界のポピュラー音楽、日本のヒット曲、ジャズ、もちろんマーチなど実に多彩だ。その中でも重要な位置を占めているのが、クラシック作品の編曲物である。日本の吹奏楽界でキーとなる─野球における甲子園のような存在と言えるだろうか─コンクールでも古くから取り上げられているし、コンサートでプログラミングされる機会は極めて多い。

 クラシック作品がなぜ吹奏楽で多く演奏されるのか? それは当然、独自の魅力が存在するからだ。その1番の要素は、書かれた音の全てを管楽器(と打楽器)で奏でることによって、原曲以上に華麗で迫力に充ちたサウンドと音楽を表出できることにある。

もはや吹奏楽がオリジナルと錯覚?

 本公演の3曲はいずれも管弦楽からの編曲物だ。中でも大栗裕の「大阪俗謡による幻想曲」は、吹奏楽での演奏が圧倒的に多く、この形態のオリジナル作品とさえ思われている。なぜなら、お囃子のリズム等を交えた土俗的で賑やかな音楽は、吹奏楽で演奏した方が明らかに効果的だからだ。すなわち、吹奏楽の方が音楽のインパクトがストレートに伝わり、聴き手も曲の魅力をより明確に理解することができる。

原曲以上に引き立つ色彩感

 また、サウンドの変化によって、原曲の新たな魅力や別の側面を知り得る点も見逃せない。管楽器の多彩な音色や響きが曲に新たな息吹を与え、管弦楽とは違った妙味をもたらす。ここまでの全要素を満たす代表例が、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」第2組曲である。原曲以上に引き立つ色彩感やダイナミズム、それが同曲を吹奏楽界屈指の人気作に押し上げた要因であるに違いない。

オケの表情がクローズアップ

 周知の作品の新たなサウンドや別種の魅力を感知できる点においては、オルフの「カルミナ・ブラーナ」も同様だ。この曲は、歌のソロや合唱のみならず、オーケストラの表情も変化に富んでいる。吹奏楽演奏ではそこがクローズアップされる。ちなみに筆者も、東京佼成ウインドオーケストラによるプッチーニの歌劇「トゥーランドット」の歌手付きの(ほぼ全曲)上演に接して、同作のブリリアントな魅力や鮮烈な音の動きを再認識した経験がある。歌を含む(吹奏楽では歌なしの演奏が多い)今回の「カルミナ・ブラーナ」では、声楽と器楽の絶妙な音の綾を再発見させられることだろう。

 もう1つの魅力として、オーケストラやクラシック・オンリーのファンが普段耳にしない作品を知ることができる点が挙げられる。本公演では大栗裕の作品がそうだし、「シバの女王ベルキス」等のレスピーギ作品、「ピータールー」序曲等のアーノルド作品や、ショスタコーヴィチの「モスクワのチェリョムーシカ」、ハチャトゥリアンの「ヴァレンシアの寡婦」、グリエールの「青銅の騎士」等々、オーケストラ公演にはまず登場しない作品が吹奏楽で高い人気を得ている。どれも当然「管楽器が真価を発揮する華麗な作品」で、聴くと色彩感や迫力があって実に愉しい。こうした楽曲の発見もクラシックの吹奏楽編曲に触れる楽しみのひとつだ。

演奏者だけが味わえるメリットとは

 別の観点で言えば、演奏者側の─特にスクール・バンドにおける─メリットもある。それは大作曲家の名作と音楽語法を体感できること。歴史的大家の作品の構造やスタイルを肌で感じることは、貴重な経験にも財産にもなる。実際筆者も、ワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲の第2トロンボーン・パートを、変ロ長調(移調)とハ長調(原調)の吹奏楽版、さらに原曲のオーケストラ版で演奏したが、ワーグナーの細やかなオーケストレーションの凄みは、最初に吹いた移調の吹奏楽版で実感できた。聴き手に直接の関係はないものの、クラシック作品の吹奏楽演奏は、アマチュアのプレイヤーにも大作曲家や名作の真髄を知る喜びをもたらしてくれる。

 もちろん、クラシックの演目を入れることで、吹奏楽のコンサートの内容が豊かになる。聴衆も名曲を堪能できるし、それは概ね通常のクラシック・コンサートほど身構える必要がない。しからば、当分野に馴染みのない音楽ファンもぜひ吹奏楽の演奏を聴いて、新たな音楽世界に浸ってほしい。

柴田克彦『吹奏楽編曲されているクラシック名曲集』

柴田 克彦 Katsuhiko Shibata

音楽ライター&評論家、編集者。雑誌、プログラム、Web、CDブックレットへの寄稿のほか、編集や講座など幅広く活動中。トロンボーン演奏(アマチュア)の経験あり。著書に「山本直純と小澤征爾」(朝日新書)、「1曲1分でわかる! 吹奏楽編曲されているクラシック名曲集」(音楽之友社)。中でも後者は、78人の作曲家と265曲の名曲を紹介した、吹奏楽&オケファン必携の1冊。コラムを含め読み物としても楽しめる。

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